日曜日の食卓で

とりとめなのない話が書かれていると思います

法制問題小委員会意見募集について

先ほど文部科学省によるパブリック・コメントに、次のような意見を提出した。


2.私的録音録画補償金の見直しについて
(2)ハードディスク内蔵型録音機器等の追加指定について

意 見
iPod等のデジタルの録音・録画専用機器および記録媒体を私的録音録画補償金の対象に指定するのは見送るべきです。

理 由
現行の私的録音録画補償金の対象となっているのは、デジタルの録音・録画専用機器および記録媒体であり、今回アップル社製iPodに代表されるデジタルメディアが、その対象とすべきか否かが問われています。
まず、iPod等がパソコン等と同じように、そもそも録音・録画機能専用の製品ではない以上、現行の私的録音録画保証金の対象とするのには、いささか躊躇を感じます。
次に、これらの機器を介して複製を行うのは、CD等の音源を自由に持ち運び、色々な環境でその複製物を楽しみたいという目的で使われているのが現状です。これはいわゆる「メディアシフト」と呼ばれるもので、私的複製を認めた範囲を逸脱したものではないと思います。従ってその行為が保証金を支払うべき権利者への不利益に該当するものではありません。
何よりも、この補償金制度の導入は「私的複製が正規商品たるCDやビデオソフトなどの売上げに影響し、権利者の利益の損失を与える」とされたからですが、今回俎上に上げられたiPod等が「権利者の利益に如何なる損失を与えているのか」を、権利者団体は明解な回答ができておりません(これはMD等旧来保証金を支払ってきたメディアについても言える事でしょうが)。iPod等によって生じる権利者の「不利益」とは何なのか? この件について論理的かつ実証的に説明してもらえない限り、iPod等を私的録音録画補償金の対象に指定するのは見送るべきです。
先だって発表された「速報版」の計算によれば、iPod等に録音された数百曲がすべて「不利益」となる計算をされているようですが、あまりにも実体をかけ離れた計算であります。例えばそのiPodを例にとった場合、iPodで音楽を聴くためには、iTunesというソフトウェアを用いて、市販のCDからPCに接続されたハードディスク等に楽曲データを複製し、上記のハードディスクに保存されている楽曲データを同じくiTunesを用いてiPod内蔵のハードディスクに複製するということで、都合2回の私的使用目的の複製がなされることになります。では「この複製がなければユーザーが同じCDをさらに2枚余分に買ったであろうか?」といえば「ほぼ100%そんなことはない」と言い切ることができます。「そんなことをするぐらいなら私的録音自体を諦める」のが、どう考えたって普通です。であるならば、そもそもこの複製行為に「不利益」など生じていないと言えます。

以上が「iPod等のデジタルの録音・録画専用機器および記録媒体を、私的録音録画補償金の対象に指定するのは見送るべき」とする理由です。

(5)その他(私的録音録画補償金制度の課題について)

意 見
現行の「私的録音録画保証金制度」は全面的に撤廃・もしくは見直すべきです

理 由
そもそも「私的録音録画」に、何故権利者への「補償金」を払うような「経済的不利益」があるのでしょうか。
著作権法第30条の私的使用の複製に関わる条文は次のとおりです。

著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる

この30条において問われるべきは、著作物の複製物を使用する事が「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」を逸脱しているかどうか、その点であることは論を待ちません。
この「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」における問題、すなわち「範囲の逸脱」に関してすぐに想起されるのは、パソコンの普及とP2P技術によって一般的に利用・使用可能となった、Winny等の共有ソフトによる複製データの流通でしょう。
もちろんこれは「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」を逸脱しているのは間違いないので、その共有ソフトによって複製データの不特定多数への流通を可能とした者が、権利者からそれ相応の罰則を与えられても致し方ありません(ただし、その共有範囲を何らかの方法で「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」に抑制されている場合はこの限りではないでしょうし、またここでの共有ソフトそのものが、犯罪を幇助するものでもないことは、ここで明記しなくてはならないでしょう)。
では、以上のような逸脱した複製以外の、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」での複製を可能とする「録音・録画専用機器および記録媒体」を入手(購入・記録媒体の場合はレンタルも)するに際して、何故その購入者=消費者が等し並に、権利者へ保証金を支払う理由=権利者の経済的不利益があるのでしょう?
ここで考え直すべきなのは、権利者団体の多くが仰る「著作物を複製した数がそのまま『購入されるべきだった著作物の数』である」という発想そのものです。この発想は、すでにアナログ技術の頃から始まっている複製行為の実体を著しく欠いた、言わば思いつきといっていいものです。逆に今までの私的録音録画の「歴史」を思い起こせば、この複製によって、どのような広告宣伝よりも強く、権利者、及びその著作物が新たなユーザを獲得=新たな利益を起こさせる方法であったし、現在も同様だと言えるでしょう(また翻って、私的録音録画による著作物の「新たなユーザ獲得」方法として、先の「『個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内』を逸脱した共有ソフトによる複製データの流通」を考え直した時、アメリカのシンガーソングライター:ジャニス・イアンの例をあげるまでもなく、廃盤等といったコンテンツ・ホルダー自身の経営的・経済的判断によって一般市場で入手出来なくなった著作物に、共有ソフトが光をあてる役割を果たした、という事実も看過すべきではないでしょう)。

そもそも著作物は、古典的な文学作品や哲学書などと同様、人類の英知であることを自ら欲するものであり、広く多くの人々に共有されてしかるべきものであります。そして著作権法は、その著作物を生み出すための下支えとして、著作者を支えるべき法律として存在しています。まず共有される事が前提にあり、そのための保護なのです。

現行の著作者団体の方々は、その著作物を保護するにあまり、共有されるべきものという著作物本来のあり方を見失い、バランスを逸していると言わざるを得ません。
インターネット情報サイト「ITMedia」上に掲載されている、小寺信良氏によるコラム「補償金制度廃止論にまつわる明と暗」によると「最近になって、補償金制度の内容を知らない消費者が8割を超すとの調査報告が出た」と記してありますが(小寺信良:補償金制度廃止論にまつわる明と暗 (3/4) - ITmedia NEWS)、私的録音録画を可能とする「録音・録画専用機器および記録媒体」を入手する消費者に等しく課せられている「保証金制度」が、消費者にここまで知られていないという事実は、そもそもこの「保証金制度」が消費者不在のまま稼動されてきたと問われても返答しようがないと思います。
ではその「保証金制度」を、消費者すべてを「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」を逸脱する不正複製者=悪者扱いをすることなく、消費者が納得するような保証金を支払うべき理由とそれを支える明確なデータをもとに説明出来るのでしょうか。出来ないとわたしは思います。
先の小寺信良氏によるコラムには次のような一文もあります。
「仮にこの補償金制度が廃止へと向かった場合、権利者団体は著作権第30条とともに心中するつもりだ。つまり、私的複製を全く許さないよう、潤沢な資金を使って現行法の改正へ動き出すだろう。もちろん30条には、テレビ録画も紙コピー機による複写もいっしょくたに含まれているので、音楽だけの事情で全廃できないだろうが、例外を追加するという形は有り得る小寺信良:補償金制度廃止論にまつわる明と暗 (4/4) - ITmedia NEWS
このような疑心暗鬼に駆り立てられるのは、何も小寺氏ばかりではありません。ここまでわたしが書いてきた文章において「権利者」というのは、実情では「権利者団体」を指しています。その「権利者団体」が、消費者と、そしてクリエーターである権利者自身を不在のままに運営されてきた「実績」があってこそ、このような疑心暗鬼が生まれている事を、監督官庁たる文部科学省は重く受け止めるべきです。
例えば音楽著作者の権利団体であるJASRACを例にとれば、音楽販売等を主たる業務としていない喫茶店・ダンス教室等への唐突な課金業務、歌詞掲載サイトへの恫喝にも似た通告、一般の利用実体を無視した楽譜コピーの差し止め活動など、その目覚ましい「活動」を知るにつけ、わたしを含めた消費者が疑心暗鬼になるのは止めようがありません。
このような状況の中で、さらに「保証金制度」を強化することは、あまりに近視眼的なものであり、最終的にはその著作物と我々を引き離すものにしかならない、すなわち経済的不利益を生じさせるものと考えます。

以上が「現行の『私的録音録画保証金制度』は全面的に撤廃・もしくは見直すべき」とする理由です。