日曜日の食卓で

とりとめなのない話が書かれていると思います

ある都市での三時間

小さな粉雪の降る街でのこと。
カプセルホテルを出て、向かいの簡易食堂でランチを食べる。小羊のローストにきのこのスープ。料理が届くまでの間、残り三時間ほどの、この街での予定を組み立てる。
朝食兼昼食を食べ終える頃には、テーブルはほぼ満席だった。洋食屋で、しかも店内のBGMはソウルミュージックなのに、高齢者の客が多い。扉を開けて表に出る。この西へと向かう一方通行の通りが、もしかしたら一番愛着の深い場所かも知れない。
銀行で振り込みを済ませ、金を下ろす。行く予定だったユニクロはあきらめ、時計台のそばにあるオーディオショップへと向かう。
広告にあったとおり、試聴室にはあの AVANTGARDE の DUO があった。銀色のホーンの形、それを見るだけでも来た甲斐があった。未聴のピアノトリオ、それとエルヴィス・コステロとヴァン・フォン・オッターの名盤 "For the star" を聴かせてもらう。素直な音を出すスピーカーだ。中音域が素人にもわかるほど延びる、膨らむ。セットで280万円ほどのスピーカーセットだが、高いと思わなくなってきている。地下の CD/DVD ショップで澤野工房と、デイブ・ブルーペックの CD を贖う。
駅ビル内の書店に寄りたかったのだが、もう時間はない。次の目的地である、ビジネス・ビルの地下にある喫茶店へと急ぐ。
市内の有名珈琲チェーン店の社長の兄が開いているという、専門誌にも掲載された珈琲豆自家焙煎の店。フレンチブレンドにケーキのセット。マンデリンベースの濃厚な味だが、それほど好みの味ではなかった。ただ珈琲の温度に感心する。JBL のスピーカーが、しっとりと良い音を出していた。
階段を上がると雪は大粒になっていた。昔、こんな日があった。その時はひとりじゃなかった。駅側のデパートの地下で夕食用のお弁当を買い込み、冷えた日本茶を買い、列車に乗り込む。そして四時間弱ほどで、見慣れた風景に僕はいた。

僕の好きな街。三時間しかいられなかったけれど。
三時間の間に思い出した人とは、きっともう会えない。

ではでは。