日曜日の食卓で

とりとめなのない話が書かれていると思います

こういう本を読みたかった

「亜璃西社」という出版社がある。「亜璃西」は「アリス」と読む。札幌を拠点とした老舗の地方出版社だが、そこから俺にとってかなり素敵な本が出た。「さっぽろ喫茶店グラフィティーである。TSUTAYAで目にして迷わず買った。
著者は知る人ぞ知る亜璃西社代表の和田由美氏、この方は今は亡き札幌初のタウン情報誌『月刊ステージガイド札幌』初代編集長として有名な方で、記憶違いでなければ俺の脚本の劇評を書いてくれた方である。あの劇評は本当に嬉しかった。
見開き2ページ毎に1軒づつ、和田氏の思い出深い喫茶店を紹介しているのだが、この本を読んでいると、行ったことのある店にあたって楽しい。
札幌1、2を争う珈琲の良さと言われる「カフェ・ランバン」
本当にいい本屋だった“リーブルなにわ”地下一階出口横にあった「ポールスター」
紀伊国屋書店札幌店の裏にあって、本を買った時にはよく行った「可否茶館大通店」
オールドビーンズ系の珈琲を飲ませる静かな「カフェ・ノワール
クラーク会館そばの北大入口そばで今も営業を続ける「ドルフィン」
はじめて濃い珈琲を飲んだパレードビルの「ホールステアーズカフェ」
懐かしい喫茶店の雰囲気をそのまま残していた「シャノアール
食事のメニューが豊富で70年代風の「ZAZI」
ページを読むたびに、あれこれと思い出す事がある。また、このヒロクロにもよく登場する和田博巳氏のお店「和田珈琲店」「BANANA BOAT」が紹介されているのも嬉しい。どちらももう閉店しているが、特に「BANANA BOAT」は旧札幌演劇鑑賞協会の事務所のあった長栄ビルのそばにあって、その看板を見る度に「ううっ、俺みたいな田舎者には入れん…」と、同じ並びの喫茶POEMへ行ったという記憶も甦る。この他にもまだまだ行っていない、もう行けない店が掲載されていて、ぱらぱらと読むだけでも本当に楽しい(特に北大そばにあった蔦の絡まる喫茶店「ふれっぷ館」は、閉店する前に一度行っておきたかった)。表紙はどことなく“ちくまプリマーブックス”を思わせる出来で(最近の札幌の出版社の本は、表紙デザインが良くなった)、ピンクの帯がうつくしい。
茶店紹介の他に嬉しかったのは、札幌の有名喫茶店の店内デザインを数多く手掛けた今映人(こん・あきひと)さんのインタビューがあるところだ。巻末の和田由美氏と札幌出身の直木賞作家・藤堂志津子のインタビューも悪くない。「カフェ」ではなく「喫茶店」に限りない愛情を持つ札幌在住者・旧在住者にお薦めする一冊である。