日曜日の食卓で

とりとめなのない話が書かれていると思います

星の数ほどある名曲 "You hide something"

カラオケを歌いすぎて、疲れた身体をふとんに横たえて、部屋のあかりを消さなきゃ……と思いながら眠りに吸いこまれていた時に、誰か俺を呼ぶ声が聞えてきた。
その声は、真空管アンプを暖めるのが目的の、積極的に聴くつもりのなかったアルバムの中の一曲だった。

You hide something Yukako Niizuma - Masahiro Sayama


You treat me kind and sweet
Love me as if I'm your queen
But I wish only I could sweeten your pain
Lies in your eyes


Kissing in small cafe
Whispering your love for me
But you never open the door
You know it won't take us anywhere


I know you're hiding something
I'm just waiting naked alone
Oh rest your wings once inside of my arms
Let me be the one to share


The winter has come and gone
Blow the whistle of lonely tune
The more we're sharing embrace
The more our love loses the way


You sadly touch my lips
Fill me with your soft caress
But you never open the door
You know we can't go anywhere


I know you're hiding something
I'm just waiting naked alone
Oh rest your wings once inside of my arms
Let me be the one to share


あなたはわたしをやさしく 甘くもてなしてくれる
あなたはわたしを 王女のように愛してくれる
でもわたしは あなたの傷を癒したいと願っているだけ
その目の中にある嘘と


小さなカフェでキスをする
この愛は君のものと囁く
でもあなたは扉を開かない
このままじゃいけないと、あなたにはわかっている


あなたは何かを隠している
わたしは待っている 孤独に晒されながら
一度でいいから この腕の中でその羽根を休めて
あなたと分かち合いたいの


冬が来て 去っていく
悲しい響きの汽笛を吹き鳴らして
抱きあえば抱きあうほど
わたしたちは行く先を見失う


あなたは悲しげに唇にふれて
やわらかな愛撫でわたしを満たしていく
でもあなたは扉を開かない
ふたりがどこへも行けないと、あなたは知っている


あなたは何かを隠している
わたしは待っている 孤独に晒されながら
一度でいいから この腕の中でその羽根を休めて
あなたと分かち合いたいの


「あなたは何かを隠している」 詩:新妻由佳子 曲:佐山雅弘 意訳:hirofmix

たぶんところどころに翻訳ミスがあるだろう。英詞を訳したのはここでレナード・コーエンの「ハレルヤ」を訳して以来だ(あれは本当に意訳中の意訳で、時折トラックバックで引用されていると大変申し訳ない気持ちになる)。昨日隣町であった佐山雅弘のライブ(正確には林家正蔵とのジャズ落語)の帰りに買った、佐山雅弘トリオ・マサチャンズの新しいアルバム"Sketch of the Season"の中に収められた曲である。誰も訳なんかしてないだろうし、そんなことよりも作詞者でもある新妻由佳子の歌声に突き動かされて、胸の内に残された悲しみの訳を知ろうとしただけだ。
冬の歌である。雪の夜、暖かい部屋で聞けばいいのだろう。でもそのぬくもりで悲しみが消える訳ではない、そういう歌だ。ふたりはどこにも行き場のないまま、また愛しあうしかない。遠くから小さく、でも切り裂くような汽笛が聞こえてくる。

そういう、こういってしまえばよくある情景の、でもふたりにとってはそれだけしか残されていない、そんな世界を歌いあげた曲である。どこにでもある、そんな名曲である。


こういう歌を、もうずいぶんと聞いていなかった気がする。こういう歌を聞くと、ロバータ・フラックとか、カーペンターズとか、ダイアナ・ロスとか、バーブラ・ストライサンドとか、七〇年代にはまだあった“ポピュラー・ソング”と呼ばれた名曲たちを思い出す。そしてそれがもう失われてしまったのを思い起こす。既に採決は下されたのだ。いま、世の中に流れているのは「誰かにとっては最高傑作でそれ以外の誰かにとっては糞」という成り立ちの歌ばかりなんだ。ただのいい歌には居場所がない。
今から三〇年前近く昔の土曜日のHBCテレビ「笑って笑って60分!」の後に放送していた「土曜洋画劇場」が始まる午後二時のように悲しい。


作詞・歌の新妻由佳子のことはここで知る事が出来る。
 *新妻由佳子の日々これ好日なり (blog)
 *MySpace.com - 新妻由佳子 Yukako Niizuma (MySpace)
作曲の佐山雅弘のことはここで知る事が出来る。
 *ピアニスト佐山雅弘ファンサイト・SAYAMA music BOX
この曲は佐山雅弘トリオの新譜スケッチ・オブ・ザ・シーズンに収められている。


いつかあなたに、この曲の良さがわかる時が来ればいいと思う。