日曜日の食卓で

とりとめなのない話が書かれていると思います

キス

節電のため暗い夕方のあの廊下を制服を着た彼女が両手に書類伝票郵便物を抱えて俺に向かって歩いて来るのに躯が逃げているのは視界には見えない俺自身が彼女を壁際へ壁際へと追い込んでいるからだ。どんな妄想がそうさせたのか俺が彼女に迫っているのがそもそも信じられないのだが状況は刻々と変化して俺は彼女を視界いっぱいにしようともっともっと接近する。そして玄関口の窓硝子と壁が約九〇度に接する廊下を右に曲がった角へと俺はついに彼女を追い込む。俺の躯は彼女のほぼ正面から密着しているため書類を胸元に引き寄せざるを得ない彼女はあり得ない事だが表情も変えないし何も言わないし叫び声も出さない。左手を彼女の背中にまわし腰を抱くようして躯を引き寄せると嗅いだことのない体臭が俺を包み込み俺をさらなる行動に走らせる。俺の右手のひとさし指がなめらかな彼女の顎をなぞり彼女が上目遣いになるとかなり切なくひとさし指はもう頬を通過しすぐ唇にふれてしまうから望ましいまでに湿り気を帯びる。何故俺も彼女も声を出さないのか聞こえるのはかすかな息づかいだけだが唇を近づけるとその音がさらに俺を包み込み彼女がどんな気持ちなのかまるでわからないし確認する暇などなく二人の唇は重なる。こんな行き当たりばったりなキスなど到底受け入れられるはずもないのに彼女も俺もたがいにたがいの舌を絡めはじめるがやはり音はない。そして俺が頂点に達した時それは夢だったんだ。