日曜日の食卓で

とりとめなのない話が書かれていると思います

北地蔵にて

札幌の喫茶店を語るのにはずせない店は数あれど、ここ「北地蔵」は絶対にはずせない店のひとつだ。いつも行けずにいたこの店に、やっと足を運ぶ事が出来た。
店の作りはいわゆる“鰻の寝床”で、入口から奥までの距離が深い。入るとテーブル席が続き、キャッシャーを超えると一枚板の黒のカウンターに辿り着く。カウンターの向かいは調理スペースだが、そこはカウンターと切り離されていて、横向きにならないと通れないほどの細い通路が間にある。客と店員が必要以上にじゃれあえないような造りだ。
カウンター席に座ると、つり下げられている照明がすぐ目の前にあって、読書灯のような案配になっている。そんなカウンター席の後ろ、壁際に置かれた椅子がカウンター側に向けられていて(その二脚の椅子の間にはテーブルがあるけれど、椅子に座ってもテーブル越しの相手とは顔が向き合わない)、ちょっと恰好いい。狭い空間を生かしたレイアウトだろう。
直火焙煎と看板に書かれていたから、数種類の珈琲が味わえるのかと思ったけれど、珈琲は一種類しかない。豆の種類もわからないし、しかもメニューには「珈琲」としか書かれていない。
しかし一種類しかないからこそ、しかも焙煎した珈琲豆の小売りはしているのだから、その珈琲の味には深い自負心を持っているに相違ない。珈琲好きの輩よりも、この店を愛する普通のお客さんに目が向いているのだ、そんな印象を受けた。
……濃い目だが、飲みやすい珈琲だ。温度も熱すぎず、ほんの少しだけ酸味があって、微量といっていいその酸味がなかなか好ましい。マスターに豆やら淹れ方やらを尋ねたら「普通の珈琲ですよ…」とさりげなく言われそうな、そんな味わいの珈琲である。それと「良かったらどうぞ…」と差し出してくれたパンの味が絶品だった。
珈琲がどうこうと言うよりも、落ち着いた店内の雰囲気を味わってほしいという、昔ながらの喫茶店哲学が生きている店だ。街の喧騒を窓外に追いやって、ひとりで読書をしたり日記を書いたり、気の置けない友達と静かに話をしたりするのにベストな喫茶店である。何と云うか、ここを基準点にしている喫茶店好きが多そうだ。本とCDを買った時に是非とも一服したい喫茶店、である。また、来ましょう。