誰がためにそれは
先だって書いた「いい言葉だと思った」で紹介したはてなダイアリーユーザのid:agincyuさんが、コメント欄でのおれのリクエストに応えて「AppleComputer - websatou photo life」という文章をわざわざ書いてくれました。どもありがとです。この文章の中でagincyuさんは、最近手に入れたmac miniに関わるアップルの行き届かないサポートと、ユーザフレンドリーなイメージのギャップから、アップル社の体質について言及しています。*1
そこで今回はそのお返事をかねて、おれが思うアップルについて書いてみようと思います。
基本的にアップルは(というかジョブスは)“自分たちがほしいものを製品化する企業”である。そこには「パソコンはこうあるべき」という「ビジョン」があり、アップルは常に消費者のニーズよりもその「ビジョン」を優先する企業である。マック歴の長いユーザは、そのビジョンを信奉して使い続けていると云っていい。その意味でアップルは確かに、agincyuさんが別のページで引用した「A・ハーツフェルドが語る「Macの誕生と、その他の物語」(前編) - CNET Japan」からもわかるとおり“消費者に顔が向いてない”企業である。今はiPodのおかげでうまいこと「ビジョン」と「消費者のニーズ」が重なっている(もしくは「消費者のニーズ」を喚起している)ので「顔が向いている」ように見えますが、その「ビジョン」を失うと途端に迷走するのはジョブス復活前の体たらくを思い出せばすぐわかります。
そういうアップルの姿勢が、OSの90%以上がwindowsという環境から見ると、相対的に優れて見えるとはいえます。
これはマックユーザからのひいき目もあるでしょうが、普通の社会人がインターネットをしたり、音楽を聴いたり、DVDを見たりする程度ならマックで十分です。他のwindowsマシンはマックに比べて高機能この上ないのですが、はたと「じゃあ俺はこいつで何をしたいんだ?」と考えた時に、windowsマシンには不必要な機能が多すぎます。でもメーカーもユーザも「何をしたいんだ?」というビジョンを持ちえていないため「機能は多いに越したことはない」「バンドルソフトは多いに越した事はない」という考えに陥ります。これもまた、アップルとは別の意味で「消費者に顔が向いてない」結果だと思います。トレンドはあってもビジョンはない、といえばいいだろうか。*2
ではアップルにとっての「ビジョン」とは何か。それはジョブスが宣言した「パソコン=デジタル・ハブ」になるでしょう。パソコンはデジタル機器をつなぐハブである、というビジョン。それを体現しているのがiMacです。DVDを光ケーブル接続でモニタに繋げて見る、iTunesに収めた音楽をiPodで聴く、デジタルカメラで撮った写真をiPhotoで整理編集する、デジタルビデオカメラをiMovieで編集する、編集した動画はiDVDを使って焼く、iChatAVを使ってチャットをする……今どきパソコンのハードとソフト(OS X)を一社で生産・供給しているPCメーカーなんてアップルだけです。これは本体のデザイン、iPodといった周辺機器も込みで「これがパソコンなんだ」というアップルの譲れない「ビジョン」の現れです。だからこそマックを使っていると、ストレスのない、統一性の高い使用感を味わう事が出来ます。
逆にソフトメーカー等のプログラムを作る側にしてみれば自分好みのソフトが作りづらい“縛りのきつい”パソコンと云えるし、「それ以上の事がしたい」というユーザにしてみれば使い勝手の悪いパソコンだとも云えるでしょう。
ただ、パソコンユーザのほとんどが「インターネットをしたり、音楽を聴いたり、DVDを見たりする程度」の、ある種単機能な使い方しかしていない現状の中でなら、アップルの商品がユーザフレンドリーで、相対的に優れて見える状況に変わりはないと思います。*3