日曜日の食卓で

とりとめなのない話が書かれていると思います

"More than this"

生首に聞いてみろ

生首に聞いてみろ

読み終ってから、胸が満潮に充たされていくような思いがした。「パズル崩壊」のほか、たぶん「頼子のために」以降の作品から少し離れていた読者としては「これ以上いうことはない」というのが今の読書感だ。「これ以上いえない」という言い方も、出来るのだが。
これ以上の完成度はありえない、と思わせるほどにこの作品には隙がない。いや、今すこし冷静になって思い起こせば、ひとつひとつの瑕瑾をあげることはできるのだが、そんな言葉をねじ伏せる力がこの作品にはある。これだけ隙がないと、読者はもしかしたら、作品に感情移入ができないかもしれない。
よくミステリ作品を評するのに、そのトリックと、トリックを納得させるだけのリアリティ、その整合性が語られるけれども、そういった評論がそもそもしゃらくさいと思わせるだけの強靱さが、この作品には漲っている。
僕が読んだ今までの法月綸太郎作品中で、一番ソリッドな文章で書かれた作品だと思う。冒頭から最後までこの文章で書きつづけ、いくつものトリックを用意し、現実世界との着地点を見出していった作者の作業を考えると、ため息が出てくる。
誰にでも勧める気持ちはないが、読んで損はないと断言させてもらう。