日曜日の食卓で

とりとめなのない話が書かれていると思います

石原慎太郎は馬鹿だ

ISBN:4163665900:detail

最近の書き手でわりと贔屓にしている坪内祐三の新刊「文庫本福袋」を、図書館から借りて読んだ。週刊文春誌上で新刊文庫本を紹介するコラム「文庫本を狙え!」をまとめたシリーズ三冊目である。しかし小林信彦といい近田春夫といい坪内祐三といい、週刊文春のコラムはなに気に充実しているな。
小説や物語の文庫本の紹介も勿論あるが、エッセイや批評系の文庫、例えば岩波やら中公文庫を数多く紹介してくれるのが嬉しい。特に「中公文庫がただの普通の文庫シリーズになって十年近くの時が経つけれど、今月(七月)の新刊には、かつての(つまり肌色の背表紙時代の)中公文庫の雰囲気をもった本が二冊混ざっていて嬉しい」(382ページ)なんていう、文庫本総体に向けられた微妙なニュアンス(という程でもないか)が書かれていると、なおさらその匂いを知る者にはちょっと堪えられない。
本の概略や著者のプロフィールから購買意欲がそそられるのは勿論だけど、それ以外の内容もちょっと面白いから、文庫本をめぐるエッセイとしてさらりと読むのがよろしい。例えば柴田錬三郎の文庫「柴錬ひとりごと」(中公文庫)のこんな一節。

ある新人の作家が柴錬に「僕は、これからの作家は、行動することによって、作品を書かねばならないと思います。某ホテルの受付の娘を、僕は、ヨットに乗せて、沖へ出て、セックスをし乍ら、彼女に思いきり官能の叫びを、海原へひびかせてみたのです」、と言った。「私は、阿呆らしくて、返辞をしなかった」。
その人気作家はやがて政治家となった。(坪内祐三「文庫本福袋」422ページ)

なんだ石原慎太郎ってただの馬鹿じゃないか。
「他の政治家よりまだいいよ」と思っていた自分に猛暑を促したい。というか促しました。