日曜日の食卓で

とりとめなのない話が書かれていると思います

気ままな暮らし、気ままなおしゃべり

 片手に珈琲サーバーを持って弟は、小ぶりな食卓の椅子に座るとこんな話からはじめる。
「ひどい話だ。ロケットニュースのこの記事は見た?『パパママ必見! 「適切でない褒め言葉は数年後の子どもの考え方に悪影響を及ぼす」という研究結果』。こんなタイトルで無駄に人を不安にさせてPVを稼ぐんだ」弟の淹れた珈琲は美味しい。といって、弟がその珈琲の味に見合う人格者でないことは、姉である私が一番良く知っている。「姉ちゃん、クッキーのカス、ついてるよ」と言うと弟は小指でわたしの唇の端についていた食べかすをとって、ひょいと口にいれる。
「キ・タ・ナ・イ」「汚いかな」「汚いわよ」「気をつける」「いいわよ別に」たまにひとり暮らしをする弟の家に来て、こうして食卓をはさんで弟を見ていると、いったいこいつはいくつになったらあたしの前からいなくなるのだろう、と思う。
「そういえばね、あたしもこんなの見たわよ」そう言って私はiPhoneの画面を弟に見せた。「http://www.biranger.jp/archives/62608
「なに、紙ナプキンって体に悪いの?」「んなバカな。昭和の30年代だっていうならまだしも、今時そんな商品が売られてる訳ないじゃない? 肌負けする人はいるけど」
 ふん、と鼻を鳴らして弟は珈琲を一口すする。
「上手い脅し文句。『紙ナプキンに使われるケミカル素材が、膣を経由して子宮に悪影響を与えるという説があるのです!』。どこにそんな説があるっていうのよ。若林理砂って人がね、「女の体を、脅すな<生理用ナプキンの真実>」で書いてたけど、こんなのデマもいいとこよ」
「疲れているとさ、ネットで見るもの全部がステマに思えてくるよ。そんなことない?」疲れてるなら寝ればいいのよ、と私は答える。大体ひとり暮らしの男やもめに夜など長いだけだろうに、遅くまで起きていて何かいいことがあるのか。そんなことだから、こうして私が汚れた部屋に来るハメになるのだ、きっと。
「次はね姉さん、これは心暖まる話だよ。『ノルウェー公共放送局が12時間の薪特集、薪が燃えてるだけの映像を国民の2割が視聴』

「へえ……いいニュースね。昔NHKの番組に『海外ウィークリー』ってあったじゃない? あれに出てきそう」「ああそうだね、そうかもしれない。俺、平野記者ってわりと好きだったな当時。海外特派員で」「あんたって、わりとそういうのが好きよね」「そうね、中学校時代の憧れの仕事が“大学教授”だからね。知的な雰囲気に弱いんだよ」
「メガネかけた女の子って、あんた好きだものね」
「そうね、メガネっ子はいいよね」
 そう言うと彼は食卓に置いてあった眼鏡を手にして私の鼻にかける。
「うん、やっぱり似あうよ、姉さん」