日曜日の食卓で

とりとめなのない話が書かれていると思います

(仮)ここしばらくずっとからっぽ

 もしこういう言い方が許されるなら、姉だけは親族の中で常にわたしの味方である。たとえその口から出る言葉が益体もない悪態であっても、姉は幼い内からわたしをかばい、非がわたしにあろうとも守ってくれた。それだから、何事においてもわたしは姉を大切に思い、わたし自身よりもまず姉のことを先において生きてきたのに、こうして姉と会う時はいつも、程度を問わず姉に迷惑を、災厄を及ぼす時ばかりだった。
 玄関の引き戸を何の前ぶれもなく開けて、たまたまトイレに入ろうとしたわたしと目があった姉は、手にしていたバッグから「これ、あんた好きでしょ」と言って緑色のぬいぐるみを取り出すとわたしに手渡した。「なんだいこれ」「カエルよ、見たらわかるでしょ」「おれ、別にカエル好きじゃないよ」「ウソおっしゃい」そういいながらすでに靴をぬぎ、汚れた部屋へずけずけと入っていく。
 トイレから出てくると、姉は台所で煙草を吸っていた。
「そこに座ったらいいでしょ」
「だって…あんたのステレオ、ヤニで汚しちゃうじゃない」
「いいよ別に、おれだって去年まで吸ってたしさ」
「なんで止めたんだっけ、煙草?」
「ん…まあ、いろいろ」
「ふん、どうせ女でしょ」
「どうしてそう思うのよ?」
「あたし以外に女つくろうったって、そうはいかないんだからね」
「何言ってんのアンタ」
「何か聞かせなさい」
 そう言うと姉はオーディオセットの前の椅子に座った。腰をかがめて左手で頬杖をつき、眼鏡の奥からやぶにらみでCDプレーヤーをにらみつけた。家の中に久しぶりにタバコの匂いがした。
 そうして、音楽が流れ出した。タバコをくわえながら「不吉な曲ね」と姉は言った。でも好きよあたしこういう曲、あなたも好きでしょ?