日曜日の食卓で

とりとめなのない話が書かれていると思います

first byte

昨日は誕生日だった。
ひどく疲れることの多かったその週の金曜日、深夜の二歩前ぐらいから誕生日会がはじまった。


「ご主人さま、おかわりは如何ですか?」とメイドが俺にスパークリングワインを注ごうとする。


……誓って言うが、嘘ではない。嘘ではないが、その場にいる誰よりも俺自身が「嘘だろ」と思ったのは間違いない。テーブルの狭い辺は通常“お誕生日席”と言われるが、そこに自分が座っている事実が嘘としか思えない。テーブルの上には様々な山海の珍味が並び、ワインの後には俺が愛してやまないエビスの黒ビールが並々と注がれている。しかもメイド自家製のケーキが二個も並んでいる。
蝋燭が立てられて照明が落ちると4本の灯りがともる。吹き消すのだ。
吹き消したら「夢」が覚めるんじゃないか?
いや、だから、夢じゃないから。ただのお誕生日会だってば。吹き消すんだ。


つつがなく蝋燭の灯りは消されて、ケーキがカットされていく。カットされていくはずだったが、どういう訳か俺はメイドとケーキ入刀をする羽目になる。
ちぎられたケーキの最初の一かけは"first byte"というのだそうだ。それは、結婚する男と女の最初の仕事なのだという。まだ結婚などしたこともないのに、何故そんなことになったのか。
メイドは粛々と業務を全うし、誰も彼もが優しい笑みを浮かべている。
俺はどんな顔をしていいのかわからない。
「夢でもいいじゃないか」と思った事は覚えている。大体、あまり、こういう晴れがましいのには慣れていないのだ。何となく、慣れたくない気もするし。


それから極度の疲労でメイドは昏睡し、深夜を越えて黒々とした話題と哄笑がはじまって、俺もいつの間にか眠りに落ちていった。


目が覚めると、テーブルの上には何もなかった。
ほらね、やっぱり「夢」だったんだ。


お誕生日会を開いてくれて、ありがとうございます。hirofmixも44になりました。いい「夢」を見せてくれて、どうもありがとう。これからもどうぞよろしく。
もちろん帰りの車の中で、俺の中で流れた曲は、これしかなかった。


追伸:CD-ROM、早く下さい(多少の費用は考えます)