日曜日の食卓で

とりとめなのない話が書かれていると思います

劇団動物園の忘年会に参加する

俺の住む町から1時間ほどの北海道北見市を拠点に活動している、劇団動物園の忘年会に参加させていただいた。
劇団動物園は、かれこれ20年近く公演活動を続けている老舗劇団で、いや本当に老舗劇団になってしまったな。それぐらい劇団を続けていくのは至難の業で、特に文化活動が活発とはいえない一地方都市なら尚更のことだ。年をとっても、地方に暮らしても、演劇を諦めなかった人たちがいると思うと、本当に頭の下がる思いがする。
忘年会は夜9時から始まったのだが、最初の30分を「園児公演」と題して、新人女優二人をフィーチャーした舞台を上演した。演目は、岸田國士戯曲賞を受賞した鈴江俊郎が、わざわざ劇団動物園のために書き下ろした「ホテル山もみじ別館」。その1場と2場をひとつにまとめての上演だった。これがなかなか良かった。
書き下ろし作品だけあって、この戯曲は園児公演に先立って主要メンバーでの本公演があった。これもなかなか噛み応えのある舞台で、札幌あたりの劇団でもこれほどの舞台は観せられないのじゃないか、と言うかそんなこと関係なしに面白かった。そして園児公演の冒頭、演出の松本大吾が「今日のお客様はコアな観客ばかりなので」と言ったとおり、今回の忘年会参加者は“劇団関係者”でもあるから、全員が本公演を観ている(俺は関係者というほどでもないのだが、知り合いの某マッピー嬢が劇団動物園の熱狂的ファンなのだ。彼女がいなかったらそもそも忘年会に参加すること自体なかっただろう)。そのことを見越して松本も、本公演とは別の切り口で、原作の1場と2場だけから一つの舞台作品を作り上げてしまった。いやもう忘年会の出し物じゃないだろここまでみっちり作り込んだら。これはもう非常に贅沢な観劇体験で、何と言うか劇団文学座の“アトリエ公演”みたいな(観たことないが)、ある親密な雰囲気に包まれた「公演」だった。
本公演での演出は、登場する不倫カップル2組の台詞以上に、台詞としては語られない言外の、背後のストーリーの推移に力点が置かれていた。それは戯曲の主題に添った演出だったと思うが、今回の園児公演では「新人女優をどう魅力的に見せるか」が演出の優先事項だったためだろう、本公演と比べて役者の台詞のテンポが非常になめらかで、観る側に生理的な快感をもたらしていた(特に1場)。台詞はそのまま台詞として情景を描き、登場人物の心理をストレートに表現するため、その分劇構造は単純化されたとも言える。そのためと言っていいだろう、2場の演技と、新たに付け加えたラストシーン(二組のカップルがそれぞれプリクラを映すシーン)は、非常にメロドラマティックな感触を持つことになった。
その2場だが、1場がリニアな時間軸をそのまま舞台に乗せていたのに比べ、2場はフラッシュバックを多用し、テキストの流れを分断することで複数の情景を作り出し、二人の恋愛模様を立体的に見せるのに成功していたと思う。特に舞台両側に男女それぞれが立ち、台詞を言いながら交互に舞台前方へと歩いていくシーンは、その照明効果にとともにかなり美しかった。自前の舞台だからこそ出来た、空間を知悉した演出だったと言えるだろう(このアトリエも来年2月をもって閉鎖することになるという。残念である)。
脚本全体としては、まがりなりにも人には言えぬ恋をしてしまった二組の男女が出会い(!)、そのドタバタの果てに虚無的とさえいっていい主題へとストーリーが収斂していくのだが、今回はそのテキストの一部をひとつの舞台として完結させるため、脚本本来の主題はラストのプリクラのシーンでそっと暗示するのみとなった。もちろん、演劇は公演時間の制限やら出演者の力量やら観客の質やら、テキスト外の要因をあらかじめ組み込む事によって成り立たせる芸術作品なので、これはこれで「アリ」だと思うし、実際味わいある舞台だった。
個人的には「ひとつのテキストから色々な舞台が作れるのだな」という単純な事実を目の当たりに出来た、というのが大きな収穫だった。何せ同じ脚本を別な演出で実際に観ることが出来たのだから、ずいぶんと贅沢な演劇体験、贅沢な忘年会と言わなくてはならない。
「園児公演」の後は、観客持ち寄りの料理お酒ジュースをテーブルに並べての本格的な忘年会へと突入した訳だが、それから朝まで公演の感想やら昔の話やら演劇と文化やら胸元のレースが色っぽいとか、そんな主に馬鹿話を飲み語り笑い続け(俺はたぶん5時近くに倒れたのだが、1時間後に起こされた時にはまだみんな飲んでいた)、ほとんど何年ぶりと言っていいぐらいひどく楽しい時間を過ごした。そして帰宅したとたんついさっきまで寝ていたのである……嗚呼。


はてなダイアリーユーザにして演劇ファンの皆さまにお伝えしたいのは、こんな一地方都市で、ここまでクオリティの高い公演をしている劇団があるという事である。特に鈴江俊郎ファンには劇団動物園も知っておいてほしいと思います。URLはこちら→http://homepage.mac.com/nyaruha/bane/index0.html。ガンバレ大吾。