日曜日の食卓で

とりとめなのない話が書かれていると思います

あなたはきれいになった

「そして、こう考えたんですよ。ロロが、自分の作った文字で日記を書いたのは、その日記を他人には絶対に読ませたくなかったからであり、同時にまた、いつか誰かに是非読んでもらいたかったからであるって……。わかるでしょう? ロロはそうした矛盾した気持ちを持ち続ちつづけたんです」(別役実「黒い郵便船」より)


「彼女、彼氏出来たんじゃないの?」
この前、先々週だったか、隣にいたとある友人が俺にそう訊いてきた。そうかな?
「うん、久しぶりに見たけど、すごくきれいになった」
それが本当なら由々しき問題だな、と俺はほほえんだ。勿論、知っていた。


あなたはきれいになった。すごくきれいになった。
女性は愛されると、見違えるほど美しくなる。よく耳にする物言いだが、自分の経験から照らし合わせても真実だと云っていい。
ただ何気なくそこにいるあなたを目にした時でも、今までは気づくことのなかったあなたの女らしさを感じとることが出来た。そのせいなのか俺はひどく久しぶりに、女性の胸のふくらみを魅力的なものとして感じとるような事態にここしばらく陥っている。他にも色々とある、セクハラまがいのそんな言葉を、俺は1ダース程度は書棚に陳列することができる(あまり見たいと思わないだろうが)。俺がいつも以上にあなたにうまく話が出来ないのは、そんな理由もあるのだろう、きっと。
あなたがきれいになったのは、友人が目を瞠るほど美しくなったのは、俺にとってとても嬉しいことだ。ちょうど一年前になるだろうか、あの頃の憔悴しきっていたあなたを見ていた者として、これほど喜ばしいことはない。俺がそう思ったところであなたの美しさが今以上に増すことはないだろうが、その肌を輝かせている理由の1%ぐらいにはなっていてほしいと思う。だから友人が、あなたに彼氏が出来たのかも知れないと口にしたのはひどく自然なことだ。女性は愛されると、見違えるほど美しくなる。もしそうだとしたなら、今の俺は「良かったなあ」と言って祝杯を上げる、言葉を失うほど辛口の酢漬けを口にして。そう思うしかないほど、あなたはきれいになった。
あなたは気づいていないだろうたぶん。