日曜日の食卓で

とりとめなのない話が書かれていると思います

ぼくはあなたを知らないのに


あなたに会うのは久しぶりだ。久しぶりにあなたは僕のiMacのデスクトップに登場した。やあ、久しぶり。元気だったかい。
いつあなたを迎え入れたのか、それさえももう憶えていない。
(たぶんインターネットに繋いで間もなくの頃だ)
(まだダイアル・アップの時代)
(Powerbook1400を使っていた頃)
あなたは素肌の上に薄い白のレオタードを着ていて、その大きな胸も、乳首も、陰毛さえ、もう出逢った時から露わにしていた。
あなたは、ぼくを知らないのに。
ぼくは、あなたを知らないのに。
あなたを最初に見た時も、そしてダウンロードした時も、ぼくはただキレイな女性の裸が映し出されたデスクトップピクチャWindowsで言うところの「壁紙」)の一枚として、あなたをパソコンに迎え入れた。
あなたはたった一人のあなたなのに。
あなたはかけがえのない個を残さないかわりに「女性一般」として画像に定着され、今もこうしてぼくのパソコンに残されている。
お元気ですか。


あなたに限らず、女性の裸はインターネットに満ち溢れている。
その気になれば、どんなスターでもアイドルでも、いぎたない格好をさせることも出来る(アイコラというのもありますね)。
釈由美子が素っ裸で浜辺をはしゃぎまわる映像を見た事があるよ。最初に見た時はひどく驚いたけれど、それがいわゆる流出映像であったにせよ、精密なイミテーションであったにせよ、何にせよすぐに色あせていく事を、ぼくらはもうすでに知ってしまった。
あなたもぼくも、どんどん消費されていく。
あなたがいまこんな風に語られている事さえ、当のあなたは知る由もないだろう。そもそもあなたは実在していたのか、ぼくにはそれさえ確かめる術もない。
そもそもこんな感傷などいらないのだ。


それでも元気で。どうぞ元気で。