日曜日の食卓で

とりとめなのない話が書かれていると思います

フレデリック・バック展を観てきたよ

 今年のゴールデン・ウィークはひどく贅沢をした。一日のんびりと「フレデリック・バック展」を観ることが出来たからだ。
 フレデリック・バックは「クラック!」「木を植えた男」でアカデミー賞短編アニメーション部門を受賞したカナダ在住のフランス人である。わたしが観たのは札幌芸術の森美術館で、最初は3月のことだった。仕事絡みの来館だったために雑務に忙しく、時間をかけて観る事は出来なかった。いつもならそれで終るのだけど、今回は違った。もう一度、必ずもう一度観てやるぞと心に誓ったのだ。美術展もそれなりに観てきたけれど、そんな風に思ったのは生まれて初めてだった。
 もちろんアカデミー賞を二度も受賞しているのだから、彼が優れたアニメーション作家なのは間違いがない。だからこそ彼の作品を愛したスタジオ・ジブリが主催となって、これほど大々的な個人展を行う事が出来たのだ。けれどもわたしが一番に心魅かれたのは、彼フレデリック・バックが幼い頃から描き続けた絵の数々だ。油絵であったりデッサンであったり、水彩画や商業デザイン、結婚前の奥さんに送った手紙のイラストなど、彼が描き続けてきた膨大な絵を、たっぷり二時間近くをかけて飽かずに観た。
 どうしてこれほど彼の作品が、それもアニメーションより(今回の展示会ではアニメーション作品もその一部が上映されていた)その絵に心魅かれたのか、正直なところはわからない。わたしは以前にピカソシャガールなど、いわゆる芸術家の作品も観たことがあったし、それはそれで感動さえしていたけれど、フレデリック・バックの作品ほど“愛した”ことはない、そう言うことは出来るだろう。
イラスト1
 この作品は彼が生まれ故郷のフランスから、結婚することになる奥さんの住むフランスへ移住する際に乗船した時に描いたスケッチで、わたしが彼の作品の中でもかなり好きな作品の一つだ。いや、言葉を費やして絶賛するほど芸術性の高いスケッチではないというのはわかるよ、もっと上手く描ける画家は世界中にきっと沢山いるだろう。だからこの感情はほとんど恋に近い。
 絵の観方がわからない時は、どの絵を家に持って帰りたいかを考えながら観るといいと、確か赤瀬川原平がどこかに書いていた気がする。どの絵を買いたいか、だったかも知れない。そんな風に、観る側の所有欲を刺激する絵がその人にとっての良い作品、ということなのだろう。そういう意味で言っても、今まで観た絵の中で、これほどほしい絵の多かった美術展はなかった。
 いずれ複製でも彼の絵を買ってしまうのではないか、という気が今もしているのが、自分でも少し怖い。