日曜日の食卓で

とりとめなのない話が書かれていると思います

いま「STEREO SOUND」は面白くなってきている(昔のことは知らないよ)

 いまステサンこと「Stereo Sound」は面白い、昔のことは知らないが。ついに最新号の2011年冬号(No.177)では御大・菅野沖彦氏が誌面から退かれ、毎年恒例のグランプリにも小さくない変化が生じた。*1御大があれほど毛嫌いしていたデジタルファイル・ミュージックに関する記事も、号を重ねる毎に増加傾向を示している。当たり前だ、良し悪しはともかくデジタルファイルミュージックは時代の趨勢である、それが時代の趨勢だからという理由で忌避するのは間違えた貴族趣味でしかない。事ほど左様に最近の誌面変化はステサン自身の旧態依然としたセルフイメージへの穏やかなテロリズムと言っていい。この変化を担っている影の主役は間違いなく和田博巳氏だ、と俺は考えている。
 思うに和田氏は「オーディオの音=きれいな音=いい音」という従来の公式でオーディオを評価しないエポックメーキングなオーディオ評論家だと思う。*2ディストーションのかかったギターサウンド、マイクを通さないテクノミュージック、生楽器・生演奏の音楽(主にクラシックやジャズ等)の対極を行くこれらのジャンルの音楽の核を汲み取るオーディオとは何か? という評価軸を血肉化しているのは、あの年齢のオーディオ評論家では和田氏ぐらいしか思いつかない。*3
 ちなみに和田博巳氏は(ご存知だと思うけど)70年代初頭の日本語ロックバンド・はちみつぱいのベーシストだった人である。その前はジャズ喫茶をされていた(すごい経歴である)。そして今は千葉の新居で爆音でロックを聴いている。オーディオとロックを結びつける仲人役にこれほど的確な人材はない。*4

ステレオサウンド No.177―季刊

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オーディオ大事典―各コンポーネントのしくみ音質向上法をわかりやすく解説!

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センチメンタル通り(紙ジャケット仕様)

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*1:「グランプリの常連だったマッキントッシュ製品が今年はなかったですね」と某店長曰く。

*2:同じステサンで活躍する三浦孝仁氏、傳信幸氏はその意味で旧来のオーディオ評論家に思える。

*3:そして、菅野氏を現在とをつなぐミッシング・リングが嶋護氏であるのは言うまでもない。「レコードに収録されたノイズもまた音楽である」という理念があればこそ、嶋氏を通じてクラシックとP.J.ハーヴェイはつながるのである。菅野氏の録音した音は本当に凄い、ぜひ聴いてほしい。

*4:最後になったが、今年になってステサンで活躍されていた細谷信二氏、そして上杉佳郎氏がそれぞれ鬼籍に入られた。慎んで哀悼の意を表します。