胸の底の熾火のように
- 作者: 山本夏彦,藤原正彦
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2004/02/28
- メディア: 文庫
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有名な短文の終わりを引用する。
荷風の人物は彼が好んで援用した儒教的モラルからみえば低劣と言うよりほかない。それなのに荷風は今も読まれこれからも読まれ、日本語があるかぎり読まれるのは、ひとえにその文章のせいである。その文章は「美」である。荷風は日本語を駆使して美しい文章を書いた人の最後のひとりである。おお、私は彼を少年のころから今に至るまで読んで、恍惚としないことがない。些々たるウソのごときケチのごとき、美しければすべては許されるのである。
山本夏彦「美しければすべてよし」より
この文庫には引用した文末の次頁に永井荷風翁の写真があって、これがまたどのような理由であれ近づきたくはない人としての要件をその顔だけで満たしている。山本夏彦の短文はその短さ故か、読み終る度、胸の底の熾火のありかを知らされることになる。